インスリン抵抗性検査を勧められ、HOMA-Rの基準値や数値が何を表しているのか分からず、糖尿病につながる状態なのか不安になっている方もいるでしょう。
HOMA-Rはインスリンの効きにくさを推定する指標ですが、数値だけで糖尿病と決めつけたり、正常だから糖代謝に問題がないと考えたりすると、体の状態を正しく捉えられない場合があります。
インスリン抵抗性検査の内容、HOMA-Rの計算式、1.6以下と2.5以上の基準値、評価しにくい条件を整理します。検査前の注意点や結果が高かった場合の確認事項も把握できます。
HOMA-Rと血糖値、HbA1c、体格などを合わせて確認すれば、結果票の数値だけで判断せず、生活習慣の見直しや医療機関での詳しい評価が必要な状態を分けて考えられます。
インスリン抵抗性検査はインスリンの効きにくさを数値化する
インスリン抵抗性検査では、血糖値だけでは分からないインスリンが体内でどの程度効いているかを評価します。簡便な指標として広く用いられているのがHOMA-Rです。
インスリン抵抗性は血糖を下げるために多くのインスリンが必要な状態
インスリン抵抗性とは、膵臓(すいぞう)からインスリンが分泌されていても、筋肉や肝臓などがインスリンに反応しにくくなり、血糖を下げる作用が弱くなった状態です。
インスリンは、血液中のブドウ糖を筋肉などの細胞へ取り込ませる働きを持つホルモンです。インスリンが効きにくくなると、同程度の血糖値を維持するために、膵臓はより多くのインスリンを分泌する必要があります。
血糖値がまだ大きく上昇していなくても、インスリンが多く分泌されて血糖値を保っている場合があります。血糖値だけを確認していると、インスリンの効きにくさそのものは把握できないことがあります。
2型糖尿病では、インスリンを十分に分泌できなくなる「インスリン分泌低下」と、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」の両方が発症に関係します。インスリン抵抗性検査は、糖代謝異常の背景を確認するために利用されます。
HOMA-Rは空腹時血糖と空腹時インスリンから算出する
HOMA-R(Homeostasis Model Assessment of Insulin Resistance)は、空腹時血糖値と空腹時インスリン値からインスリン抵抗性を推定する指標です。HOMA-IRと表記される場合もあります。
厚生労働省の「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」では、インスリン抵抗性を評価する一般的な指標としてHOMA-Rが示されています。複雑な検査を行わず、空腹時の採血結果から計算できる点が特徴です。
HOMA-R=空腹時インスリン値(μU/mL)×空腹時血糖値(mg/dL)÷405
例えば、空腹時血糖値が100mg/dL、空腹時インスリン値が8μU/mLの場合は「100×8÷405」と計算し、HOMA-Rは約1.98です。血糖値だけではなく、血糖値を保つためにどれだけインスリンが必要になっているかを合わせて確認できます。
血糖値検査は血液中のブドウ糖の濃度を調べる検査で、HOMA-Rとは評価する内容が異なります。血糖値検査との違いや基準値は、血糖値検査の記事で詳しく確認できます。
HOMA-Rは負担を抑えてインスリン抵抗性を推定する方法
インスリン抵抗性を詳しく評価する方法には、一定量のインスリンを投与しながら血糖値を一定に保つ「グルコースクランプ法」があります。グルコースクランプ法はインスリン抵抗性を評価する基準となる方法ですが、検査に時間と手間がかかります。
HOMA-Rは早朝空腹時の血糖値とインスリン値から算出できるため、グルコースクランプ法より簡便にインスリン抵抗性を推定できます。医療現場や研究などでインスリン抵抗性を把握する際に利用されています。
一方、HOMA-Rは直接インスリンの働きを測定している検査ではありません。空腹時の血糖値とインスリン値から計算した推定値であり、血糖値の状態や治療内容によってはインスリン抵抗性を正しく反映しない場合があります。
HOMA-Rの数字だけを単独で評価せず、血糖値やHbA1c、体格、脂質、血圧、治療状況などを含めて確認することが重要です。
HOMA-R基準値は1.6以下が正常で2.5以上はインスリン抵抗性あり
日本循環器学会と日本糖尿病学会の合同ステートメントでは、HOMA-Rは1.6以下が正常、2.5以上でインスリン抵抗性ありとされています。ただし、すべての人を数値だけで判定できるわけではありません。
1.6以下と2.5以上をHOMA-Rの目安として確認する
HOMA-Rの結果を確認する際は、1.6以下と2.5以上という2つの数値を押さえておきましょう。1.6以下であれば正常とされ、2.5以上ではインスリン抵抗性があると考えられます。
| HOMA-R | 結果の見方 |
|---|---|
| 1.6以下 | 正常とされる範囲 |
| 1.6超~2.5未満 | 正常とインスリン抵抗性ありの間に位置するため、ほかの検査結果や身体所見と合わせて評価する |
| 2.5以上 | インスリン抵抗性があると考えられる範囲 |
※日本循環器学会・日本糖尿病学会合同ステートメントでは、1.6以下を正常、2.5以上をインスリン抵抗性ありとしています。
1.6を超えて2.5未満の範囲について、合同ステートメントでは正常またはインスリン抵抗性ありという明確な区分が示されていません。中間の数値だけを見て病気の有無を決めるのではなく、空腹時血糖やHbA1cなどを含めて医師が評価します。
また、検査機関の結果票に独自の参考範囲が記載されている場合があります。結果票に記載された範囲と医師の説明も合わせて確認しましょう。
計算例では同じ血糖値でもインスリン量でHOMA-Rが変わる
HOMA-Rは血糖値とインスリン値を掛け合わせて算出するため、血糖値が同程度でもインスリン値によって結果が変わります。血糖値だけでは見えにくいインスリンの効き方を確認できる理由です。
| 空腹時血糖値 | 空腹時インスリン値 | HOMA-R | 目安 |
|---|---|---|---|
| 90mg/dL | 5μU/mL | 約1.11 | 正常範囲 |
| 100mg/dL | 8μU/mL | 約1.98 | 1.6超~2.5未満 |
| 110mg/dL | 12μU/mL | 約3.26 | インスリン抵抗性ありの範囲 |
※HOMA-Rは「空腹時血糖値×空腹時インスリン値÷405」で編集部が計算しています。数値は計算方法を説明するための例で、個人の診断を示すものではありません。
例えば空腹時血糖値が110mg/dLでも、インスリン値が12μU/mLであればHOMA-Rは約3.26です。血糖値を一定範囲に保つために多くのインスリンを必要としている状態が数値に反映されます。
反対にHOMA-Rが低くても、インスリンそのものを十分に分泌できていない場合には血糖値が高くなることがあります。HOMA-Rの高低だけを糖尿病の有無と結び付けないことが重要です。
空腹時血糖140mg/dL超やインスリン治療中は正確に評価しにくい
HOMA-Rには適切に評価できる条件があります。日本循環器学会と日本糖尿病学会の合同ステートメントでは、空腹時血糖値が140mg/dL以下の場合に他のインスリン抵抗性評価法と良好に相関するとされています。
空腹時血糖値が140mg/dLを超えている場合は、HOMA-Rでインスリン抵抗性を正確に評価できません。血糖値が大きく上昇した状態では、空腹時血糖とインスリンの関係がHOMA-Rの前提から外れるためです。
インスリン治療を受けている場合も、体外から投与したインスリンの影響が加わるため、HOMA-Rによる評価には適しません。インスリン治療中に自己判断で注射を中止してHOMA-Rを測定することも避けてください。
HbA1cは過去1~2か月程度の平均的な血糖状態を反映する指標で、HOMA-Rとは評価する対象が異なります。糖代謝を確認する際は、HbA1cなどの結果も合わせて見ます。
インスリン抵抗性検査前は空腹採血と治療状況の確認が必要
HOMA-Rを求めるには、早朝空腹時の血糖値とインスリン値を測定します。食事や治療内容の影響を避けるため、検査施設から指定された採血条件を守ることが重要です。
早朝空腹時の採血で血糖値とインスリン値を測定する
HOMA-Rは、早朝空腹時に採取した血液から血糖値とインスリン値を測定し、2つの数値を計算式へ当てはめて求めます。食後の血糖値とインスリン値を使ってHOMA-Rを計算するものではありません。
食事をすると血糖値が上昇し、血糖を下げるためにインスリンの分泌量も変化します。HOMA-Rは空腹時の安定した状態を前提にした指標であるため、指定された絶食条件を守らなければ結果の解釈が難しくなります。
絶食を始める時刻や水分摂取の扱いは、検査を受ける施設の案内に従ってください。人間ドックやほかの血液検査と同時に測定する場合は、HOMA-R以外の検査でも食事制限が指定されることがあります。
採血後は空腹時血糖値と空腹時インスリン値からHOMA-Rが算出されます。結果票ではHOMA-Rだけを見るのではなく、計算に使われた血糖値とインスリン値も合わせて確認しましょう。
糖尿病治療薬やインスリンの使用状況を検査前に伝える
糖尿病の治療を受けている場合は、使用している薬やインスリンについて検査施設や主治医へ伝えてください。糖尿病治療では血糖値やインスリンの状態そのものを変える薬が使用されるため、検査結果を評価するときに治療内容の確認が必要です。
特にインスリン治療中はHOMA-Rでインスリン抵抗性を正確に評価できません。HOMA-Rを測定する目的でインスリンや糖尿病治療薬を自己判断で中止したり、量を変更したりしないでください。
薬を服用している状態で検査を受けるのか、検査当日の服薬を変更するのかは、薬の種類や治療状況によって異なります。検査予約時や受診時に薬の名称と使用量を伝え、医療機関から指示された方法で受けます。
健康診断で血糖値に異常を指摘された後にHOMA-Rを測定する場合も、過去の検査結果や治療歴を持参すると、医師が血糖値の変化と合わせて評価しやすくなります。
腹囲や脂質と血圧を合わせてインスリン抵抗性を評価する
インスリン抵抗性はHOMA-Rだけで評価するのではなく、体格やほかの生活習慣病に関連する検査値も合わせて確認します。日本糖尿病学会の資料では、内臓脂肪型肥満、高血圧、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症ではインスリン抵抗性を伴う例が多いとされています。
特に内臓脂肪が蓄積するとインスリンの働きが低下しやすくなります。厚生労働省の健康情報でも、内臓脂肪型肥満や運動不足ではインスリンの働きが悪くなり、血糖値が高くなることが示されています。
HOMA-Rが高い場合は、体重だけではなく腹囲、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールなども確認しましょう。複数の異常が重なっていれば、糖代謝だけではなく生活習慣病全体の評価が必要です。
腹囲、高血圧、脂質異常、空腹時血糖を組み合わせたメタボリックシンドロームには別の診断基準があります。HOMA-R自体はメタボリックシンドロームの診断項目ではありません。
HOMA-Rは単独で糖尿病を診断せず血糖やHbA1cと合わせて評価する
HOMA-Rが高くても、その数値だけで糖尿病と診断されるわけではありません。反対にHOMA-Rが正常でも、糖尿病や食後高血糖を完全に否定できる検査ではありません。
HOMA-R高値はインスリンが効きにくい可能性を示す
HOMA-Rが2.5以上の場合は、インスリン抵抗性があると考えられます。血糖を一定範囲へ下げるために、通常より多くのインスリンを必要としている状態が疑われます。
インスリン抵抗性があると、膵臓は血糖値を保つためにインスリンの分泌を増やします。そのため、初期には血糖値が大きく上昇していなくても、空腹時インスリン値やHOMA-Rが高くなる場合があります。
HOMA-R高値は糖尿病そのものの診断結果ではなく、糖代謝の背景にインスリン抵抗性がある可能性を示す結果として捉えます。血糖値やHbA1cが正常であっても、体重や腹囲、脂質、血圧などを確認する必要があります。
HOMA-Rの数値だけを下げることを目標にせず、肥満や運動不足など改善できる要因があるか、糖尿病や脂質異常症などの疾患が隠れていないかを確認することが重要です。
HOMA-Rが正常でもインスリン分泌低下による糖代謝異常は残る
糖尿病の発症にはインスリン抵抗性だけではなく、膵臓から十分なインスリンを出せなくなるインスリン分泌低下も関係します。日本糖尿病学会は、2型糖尿病にはインスリン分泌低下とインスリン感受性の低下の両方が関与するとしています。
インスリン分泌量そのものが少ない場合は、空腹時インスリン値が低くなり、HOMA-Rが高くならないことがあります。そのため、HOMA-Rが1.6以下でも糖尿病ではないと断定できません。
また、空腹時血糖値が正常でも食後の血糖値だけが高くなる食後高血糖があります。HOMA-Rは空腹時の血糖値とインスリン値から計算するため、食後の血糖変化を直接評価する検査ではありません。
体格が標準範囲またはやせ型でも糖尿病を発症する人はいます。HOMA-R、空腹時血糖、HbA1cなど、それぞれ異なる情報を示す検査を組み合わせて糖代謝の状態を確認します。
血糖やHbA1cにも異常がある場合は医療機関で詳しい評価を受ける
HOMA-Rが高く、空腹時血糖やHbA1cにも異常がある場合は、糖尿病を含む糖代謝異常について医療機関で評価を受けましょう。HOMA-Rだけを再計算して経過を見るのではなく、糖尿病の診断に用いる検査を確認する必要があります。
厚生労働省の健康情報では、空腹時血糖値126mg/dL以上またはHbA1c6.5%以上の場合、糖尿病の可能性が高いとして医療機関で検査を受けるよう案内しています。診断は1回のHOMA-R高値だけで行いません。
血糖値やHbA1cの異常を指摘されている場合は、HOMA-Rの数値にかかわらず受診結果を放置しないことが重要です。必要に応じて再度の血糖検査や75g経口ブドウ糖負荷試験などが行われます。
糖尿病検査の種類、検査を受ける診療科、検査を受けられる場所などは別の記事で詳しく整理しています。糖尿病が疑われる検査値を指摘された場合は、検査内容と受診先も確認しましょう。
内臓脂肪や運動不足がある場合は生活習慣も見直す
インスリン抵抗性には、内臓脂肪の蓄積や運動不足などが関係します。厚生労働省は、肥満の場合の減量や定期的な運動が、インスリンの働きを改善するうえで重要としています。
特にウォーキングなどの有酸素運動は、血液中のブドウ糖を消費するだけでなく、内臓脂肪を減らしてインスリンの働きを高める作用があります。食事についても、必要なエネルギー量を大きく超えないよう調整することが重要です。
HOMA-Rが高かったからといって、極端な食事制限や急激な減量を始める必要はありません。体重、腹囲、食事量、身体活動量などから改善できる項目を整理し、継続できる方法を選びます。
糖尿病、高血圧、脂質異常症などで治療を受けている場合は、食事や運動の内容を自己判断で大きく変更せず、主治医と相談してください。持病や治療薬によって安全に行える運動量や食事内容が異なる場合があります。
HOMA-Rは基準値と評価条件を確認して他の検査と合わせて見る
インスリン抵抗性検査で用いられるHOMA-Rは、空腹時血糖値と空腹時インスリン値からインスリンの効きにくさを推定する指標です。1.6以下が正常、2.5以上ではインスリン抵抗性があると考えられます。
- HOMA-Rは「空腹時血糖値×空腹時インスリン値÷405」で計算する
- HOMA-Rは1.6以下が正常、2.5以上がインスリン抵抗性ありの目安
- 1.6超~2.5未満はほかの検査結果や身体所見と合わせて評価する
- 空腹時血糖値140mg/dL超やインスリン治療中は正確に評価しにくい
- HOMA-Rだけで糖尿病の診断や否定はできない
HOMA-Rが高い場合は、血糖値、HbA1c、腹囲、脂質、血圧なども確認しましょう。反対にHOMA-Rが正常でも、血糖値やHbA1cに異常がある場合は糖代謝異常を否定せず、医療機関で必要な検査を受けることが重要です。











