LDHは全身の細胞が傷つくと上昇する酵素

健康診断や人間ドックの血液検査でLDHに「H」が付き、「LDHの基準値をどの程度超えているのか」「肝臓の異常なのか」と不安になることがあります。LDHは全身の細胞にあるため、数値だけでは異常の場所を特定できません。

さらにLDHは、病気だけでなく採血時の溶血(赤血球が壊れること)や直前の激しい運動でも高くなることがあります。高値だけから特定の病気を推測すると、検査結果の意味を読み違える可能性があります。

現在広く使われるIFCC法では、LDHの共用基準範囲は124~222U/Lです。高値・低値の考え方やAST・ALT・CKなどとの組み合わせ、採血条件による変動を整理すると、結果票で次に確認すべき項目が明確になります。

過去の数値やほかの検査項目も照らし合わせ、再検査や受診の指示がある場合にどの情報を医師へ伝えればよいかまで押さえておきましょう。

LDHは全身の細胞が傷ついたときに上昇する酵素

LDHは全身の細胞が傷ついたときに上昇する酵素

LDHは、特定の臓器だけの異常を調べる検査ではありません。LDH(乳酸脱水素酵素)は全身のさまざまな細胞に含まれており、細胞が傷ついたり壊れたりすると血液中へ流れ出して数値が上昇します。

LDHは糖からエネルギーを作る過程に関わる酵素

LDHは、乳酸脱水素酵素と呼ばれる酵素です。酵素とは、体内で起こる化学反応を助ける物質で、LDHは糖からエネルギーを作る過程に関わっています。そのため、体の一部だけではなく全身の細胞に存在しています。

血液検査のLDHは、血液中にどの程度LDHが出ているかを測定する項目です。健康な状態でも一定量は血液中に存在するため、LDHが検出されたこと自体が異常という意味ではありません。検査施設が設定する基準範囲と比較して評価します。

LDHは肝臓の検査項目として並んでいることがありますが、肝臓だけに存在する酵素ではありません。ASTやALTなどの結果と一緒に掲載されている場合でも、LDH単独で肝機能の状態を決めることはできません。

LDHは「どこかの細胞への負担を捉える検査」と考えると理解しやすい項目です。高値の場合は、数値だけを見るのではなく、ほかの検査項目と組み合わせて原因を確認します。

LDHは肝臓や筋肉や赤血球など全身に分布している

LDHは、肝臓、心臓、腎臓、骨格筋、赤血球など、全身の多くの組織や細胞に含まれています。この分布の広さが、LDH検査の特徴です。ある一つの臓器だけから血液中へ出てくる物質ではありません。

たとえば肝細胞が傷ついた場合にもLDHは上昇しますが、筋肉の細胞が傷ついた場合や赤血球が壊れた場合にも上昇することがあります。同じLDH高値でも、原因となる場所が異なる可能性があります。

そのためLDHが高い場合は、肝臓ならAST・ALT、筋肉ならCK、血液の状態なら赤血球数やヘモグロビンなど、関連する検査項目を確認します。症状や採血前の運動なども原因を絞るための情報です。

LDHが基準範囲を超えていても、結果票だけから「肝臓の病気」「筋肉の病気」と決める必要はありません。どの項目が一緒に変化しているかを確認することが、LDHの結果を読むうえで重要です。

細胞が傷つくと内部のLDHが血液中へ流れ出す

通常、LDHの多くは細胞の中に存在しています。病気や炎症、組織への負担などによって細胞が傷ついたり壊れたりすると、細胞内にあったLDHが血液中へ流れ出し、血液検査で測定される値が上昇することがあります。

LDH高値は「細胞が傷ついている可能性」を示しますが、傷ついている場所まではLDHだけでは分かりません。この点が、特定の臓器との関連が比較的強い検査項目との違いです。

また、体内の異常だけがLDHを上げるわけではありません。採血した血液の中で赤血球が壊れる溶血や、採血前の激しい運動による筋肉への負担でもLDHが高く測定される場合があります。

LDHが高かった場合は、高値という結果だけから病名を推測せず、過去の数値、関連する血液検査、症状、採血時の条件を合わせて確認しましょう。必要に応じて再検査や追加検査で原因を絞ります。

LDHの基準値はIFCC法で124~222U/Lが共用基準範囲

LDHの基準値はIFCC法で124~222U/Lが共用基準範囲

現在のIFCC法によるLDHの共用基準範囲は124~222U/Lです。ただし、基準範囲を外れたことだけで病気の有無や重症度は決まりません。まず、手元の結果票に記載された測定法と基準範囲を確認しましょう。

LDHの数値を確認するときのポイント
確認項目 内容 確認するときのポイント
現在の共用基準範囲 IFCC法 124~222U/L JCCLSの共用基準範囲として示されている
過去の検査結果 JSCC法で測定されている場合がある 現在のIFCC法と数値をそのまま比較しない
今回の結果票 施設が採用する基準範囲と判定 実際の結果票に記載された範囲と判定を優先して確認する

124~222U/Lは成人の共用基準範囲として使われている

JCCLS(日本臨床検査標準協議会)が示すLDのIFCC法による共用基準範囲は、男女共通で124~222U/Lです。四国がんセンターなどの医療機関でも、LD(LDH)-IFCCの基準範囲として124~222U/Lが採用されています。

基準範囲は「この範囲を外れたら病気」という境界線ではありません。一定の条件を満たす健康な人の検査値をもとに設定された範囲であり、検査結果を医学的に評価するときの数値範囲です。

たとえば223U/Lであれば共用基準範囲の上限は超えていますが、その数値だけで原因や受診の緊急度までは決まりません。反対に基準範囲内でも、症状やほかの検査結果によっては詳しい確認が必要になる場合があります。

健康診断の結果票では、検査機関独自の判定区分が併記されることがあります。124~222U/Lだけを見るのではなく、結果票に記載された基準範囲、判定、過去のLDHを一緒に確認してください。

2020年以降はJSCC法からIFCC法への切り替えが進んだ

LDHの過去値を比較するときは、測定法が同じか確認する必要があります。日本では2020年から、LDとALPについて従来のJSCC法から国際的なIFCC法へ変更する動きが進み、JCCLSもIFCC法による基準範囲を共用基準範囲へ追加しました。

測定法が変わると、同じ血液を測定しても数値や基準範囲が以前と異なる場合があります。たとえば東京大学保健センターでは、2020年度までのJSCC法で120~240IU/L、2021年度以降のIFCC法で124~222IU/Lを基準範囲として掲載しています。

数年前の健康診断と現在のLDHを比べる場合は、数値だけを並べず測定法も確認しましょう。特に2020年前後をまたいで結果を比較する場合、結果票に「IFCC」「JSCC」といった記載がないか確認してください。

測定法が分からない場合は、古い結果票を医療機関へ持参すると比較しやすくなります。「以前より上がった」という変化が、本当に体の変化によるものなのか、測定法の違いを含むのかを分けて評価できます。

124U/L未満でも数値だけから原因を決めない

LDHは細胞が傷ついたときの上昇を確認する目的で使われることが多い検査です。そのため、検索すると高値の原因に関する情報が目立ちますが、基準範囲の下限を下回った場合も、LDH単独で原因を決めることはできません。

LDHが低ければ低いほど健康という意味でもありません。基準範囲は健康な人にみられる値の範囲として設定されているため、下限を外れた場合は結果票の判定や過去値、ほかの検査項目を確認する必要があります。

1回だけ低値だった場合と、複数回の検査で大きく低い状態が続いている場合でも状況は異なります。検査施設から再検査や受診の案内がある場合は、その指示に従いましょう。

低値の原因について自己判断で食事やサプリメントを変更する必要はありません。まず「今回だけの変化か」「以前から低いか」「ほかの項目にも異常があるか」を整理し、必要に応じて医師へ確認してください。

LDHが高いときは肝臓・血液・筋肉など複数の原因を確認する

LDHが高いときは肝臓・血液・筋肉など複数の原因を確認する

LDH高値では、どの臓器や細胞からLDHが増えているのかをほかの検査項目と組み合わせて考えます。肝臓、赤血球、筋肉などで関連する項目が異なるため、LDHだけを見続けるより結果票全体を確認することが重要です。

LDH高値のときに合わせて確認される主な情報
確認する部位・状態 合わせて確認される主な項目 見方
肝臓 AST、ALT、γGT、ビリルビンなど 肝細胞への負担や肝胆道系の異常がないか確認する
赤血球・血液 ヘモグロビン、赤血球数、ビリルビンなど 体内で赤血球が壊れていないかを確認する
骨格筋 CK、ASTなど 筋肉への負担や損傷、直前の運動などを確認する
その他の臓器 症状、診察、必要に応じた追加検査 心臓、肺、腎臓などを含め原因を絞る

肝臓由来ではASTとALTなども合わせて見る

LDHは肝細胞にも含まれているため、肝臓の細胞が傷ついたときに上昇する場合があります。ただし、LDHだけでは肝臓が原因とは判断できません。肝臓の状態を確認するときは、ASTやALT、γGT、ビリルビンなども合わせて評価されます。

たとえばLDHとAST・ALTが同時に上昇していれば、医師は肝臓を含む臓器への影響を考えて原因を調べます。一方でLDHだけが高くAST・ALTが基準範囲内の場合は、肝臓以外の原因や採血条件なども含めて確認する必要があります。

「LDHが高い=肝臓が悪い」と一つの臓器へ結び付けないことが重要です。ASTも筋肉などに存在するため、ASTが高い場合にもALTやCK、症状などとの組み合わせが確認されます。

結果票に複数の肝機能項目の異常が記載されている場合や、黄疸(皮膚や白目が黄色く見える状態)、強いだるさなどの症状がある場合は、LDHだけを下げようとせず医療機関で原因を確認してください。

赤血球が体内で壊れるとLDHが上昇することがある

赤血球にはLDHが多く含まれているため、体内で赤血球が通常より多く壊れる「溶血」が起こると、LDHが血液中へ放出されて高くなる場合があります。この場合はLDHだけでなく、血算やビリルビンなど複数の情報から状態を確認します。

たとえば赤血球数やヘモグロビンの低下を伴う場合は、貧血の有無や原因を調べる必要があります。また、間接ビリルビンは赤血球が壊された後の処理に関係するため、溶血性の変化を考える際に確認される項目です。

体内で起こる溶血と、採血した血液が試験管内で壊れる「検体の溶血」は別の現象です。どちらもLDHを高くする場合がありますが、検体の溶血では体内に病気がなくても見かけ上高くなる可能性があります。

LDH高値と貧血を示す項目の異常が同時にある場合は、自己判断で鉄剤やサプリメントを始めず、原因を確認してから対応しましょう。貧血には鉄不足以外にも複数の原因があります。

筋肉への負担ではCKや直前の運動も確認する

骨格筋にもLDHが含まれているため、筋肉への強い負担や損傷があるとLDHが上昇する場合があります。筋肉由来の変化を確認するときに合わせて使われる代表的な検査がCK(クレアチンキナーゼ)です。

CKは筋肉に多く存在する酵素で、筋肉の細胞が傷つくと血液中で高くなる場合があります。LDHとCKが同時に上昇している場合には、運動や筋肉への負担、けがなども含めて確認されます。

採血直前の激しい運動でもLDHやCKが一時的に高くなることがあります。前日から当日に激しい筋力トレーニングや長距離運動などをした場合は、結果を説明してもらう際にその事実を伝えましょう。

ただし、筋肉痛があるから運動の影響だと自分で決めるのは避けてください。数値が大きく変化している場合や強い筋肉痛、脱力などがある場合は、結果票の判定に従って医療機関で確認する必要があります。

悪性腫瘍などでも上昇するがLDHだけでは診断できない

LDHは、白血病や悪性リンパ腫をはじめとした血液疾患や悪性腫瘍などで高くなる場合もあります。検索結果で「LDHが高いとがん」といった情報を見て、不安になる方もいるでしょう。

ただし、LDH高値だけでがんの有無を診断することはできません。LDHは肝臓、血液、筋肉、心臓、肺、腎臓など多くの組織に含まれているため、悪性腫瘍以外のさまざまな状態でも上昇します。

LDHは特定のがんだけを探す腫瘍マーカーではありません。医師が悪性腫瘍を含む病気を疑う場合は、年齢、症状、診察、血液検査のほかの項目、必要に応じた画像検査などを組み合わせて調べます。

そのため、LDHが222U/Lを超えたという理由だけで「がんの可能性が高い」と考える必要はありません。一方、高値が続く、ほかの項目にも異常がある、体調の変化がある場合は原因を確認することが大切です。

LDHだけ高いときは採血条件と一時的な変動を確認する

LDHだけ高いときは採血条件と一時的な変動を確認する

LDHが高くても、体内の病気による上昇とは限りません。特に確認したいのが採血時の溶血、採血前の激しい運動、過去からの数値変化です。これらを整理したうえで再検査や追加検査の必要性が判断されます。

採血時の溶血でLDHが見かけ上高くなることがある

採取した血液の中で赤血球が壊れると、赤血球内に多く含まれるLDHが血清へ出て、実際の体内の状態よりLDHが高く測定されることがあります。これを検体の「溶血」といい、病気によって体内で起こる溶血とは区別されます。

東京医科大学茨城医療センターでは、採血時の圧力変化などによって赤血球が壊れると、LDHのほかカリウムやASTなども特に高値になると説明しています。つまり、LDHだけでなく複数項目に採血条件の影響が表れる場合があります。

検査室側で溶血の影響が疑われた場合、再採血や再検査が必要になることがあります。結果票や医療機関から「溶血あり」「再検査」といった案内がある場合は、その指示に従ってください。

一方、自分で「採血が難しかったから溶血だろう」と決めつけることも避けましょう。LDHが高い理由は複数あるため、検体の状態については検査を実施した医療機関や検査室の情報をもとに確認します。

激しい運動の直後はLDHやCKが上昇することがある

採血前の激しい運動もLDHへ影響します。獨協医科大学病院では、採血直前の過度な運動によってLDHやCKなどの酵素が高値になることがあるため、採血前は安静にするよう案内しています。

運動による影響を考えるときは、単に「運動習慣があるか」ではなく、採血の直前や前日に普段より強い運動をしていなかったかを振り返ります。筋力トレーニング、長時間のランニング、激しいスポーツなどは医師へ伝えられるようにしておきましょう。

ただし、LDH高値がすべて運動で説明できるわけではありません。前回も高かった、休養後の再検査でも高い、CK以外にも複数の異常があるといった場合は、別の原因を含めて評価する必要があります。

再検査前に自己判断で運動を長期間中止したり、薬を中断したりする必要はありません。服用中の薬については医師の指示に従い、検査前の運動や食事なども受診先から指定された条件を守ってください。

高値が続くかどうかは過去値と再検査で確認する

LDHの結果を見る際は、今回の1回だけではなく過去の数値との変化も確認します。毎年ほぼ同じ値だったのに今回だけ上昇した場合と、複数回にわたり高値が続いている場合では、医師が確認する内容が変わります。

再検査の時期をLDHの数値だけから一律に決めることはできません。東京大学保健センターも、LDHについて全国共通の健康診断判定基準が示されているわけではなく、全体の検査結果や過去値を踏まえて医師が判定すると説明しています。

結果票に「要再検査」「要精密検査」「要受診」と記載されている場合は、数値が少ししか基準範囲を超えていないように見えても、記載された指示を優先してください。施設ごとに受診者の状況を踏まえて判定されています。

医療機関へ相談するときは、今回の結果だけでなく過去の健康診断結果も持参すると変化を確認しやすくなります。採血前の運動、最近の体調変化、服用している薬なども伝えると、原因を整理しやすくなります。

原因を絞る必要がある場合はLDHアイソザイムを調べることがある

LDHの総量を測る通常の血液検査だけでは、どの組織からLDHが増えているのか分からない場合があります。その際、必要に応じて行われる追加検査の一つがLDHアイソザイムです。

アイソザイムとは、同じ働きを持ちながら構造が少し異なる酵素の種類です。LDHにはLDH1からLDH5までの5種類があり、それぞれ体内での分布が異なります。各種類の割合を見ることで、LDHが増えている背景を調べる手がかりにします。

LDHアイソザイムは、健康診断でLDHが高かった全員が受ける検査ではありません。AST・ALT・CK、血算などを確認しても原因が分かりにくい場合などに、医師が必要性を判断します。

LDH高値を見つけた後の検査は、疑われる原因によって異なります。自分で特定の検査を指定するより、結果票、過去値、症状や運動歴を医師へ伝えたうえで、必要な追加検査を決めてもらいましょう。

LDHの数値だけで受診の緊急度を決めない

結果票で要受診・要精密検査を指示されている場合、再検査でも高値が続く場合、AST・ALT・CK・血算などにも異常がある場合、発熱・黄疸・強いだるさ・強い筋肉痛などの症状がある場合は、LDHだけを自己判断せず医療機関で確認してください。

LDHは基準値と関連項目と採血条件を合わせて確認する

LDHは基準値と関連項目と採血条件を合わせて確認する

LDHのIFCC法による共用基準範囲は124~222U/Lですが、LDHは数値だけから異常の場所や病名を決める検査ではありません。全身の多くの細胞に含まれるため、ほかの検査結果と組み合わせて確認します。

LDHの結果を見るときのポイント
  • 現在のIFCC法による共用基準範囲は124~222U/L
  • 過去値と比較するときはJSCC法・IFCC法の違いも確認する
  • 高値ではAST・ALT・CK・血算など関連する検査項目を見る
  • 採血時の溶血や直前の激しい運動でもLDHが高くなる場合がある
  • LDH高値だけで肝臓病・血液疾患・がんなどを診断することはできない
  • 再検査や受診の指示がある場合は結果票の判定に従う

結果を確認するときは、「基準値を何U/L超えたか」だけでなく、過去からの変化、ほかの検査項目、採血前の運動などを整理しましょう。LDHが高い原因を一つに決めつけず、必要な場合は再検査や追加検査で確認することが大切です。

過去の健康診断結果がある場合は今回の結果と一緒に保管し、医療機関へ相談するときに持参してください。自分の数値の推移と検査条件を伝えることで、今回だけの変化か継続する変化かを医師が確認できます。

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