健康診断や人間ドックの案内に「腹部エコー検査」と書かれていても、どの臓器を何のために調べるのか、胃カメラやCTと何が違うのか分からないことがあります。
腹部エコーは一度に複数の臓器を観察できる一方、胃腸のガスや骨の影響で見えにくい部位もあります。異常が映らなかったからといって、すべての病気を否定できる検査ではありません。
検査の仕組みと対象臓器、腹部超音波で見つかる可能性がある病気や所見、前日・当日の準備、結果を受け取った後に確認したいことを順番に整理します。
何が分かり、何が分かりにくい検査なのかを理解しておけば、必要な準備をしたうえで受診し、再検査や精密検査を勧められた場合も次に何をすべきか確認できます。
腹部エコー検査とは超音波で腹部の臓器を観察する検査
腹部エコー検査とは、体の表面から超音波を当て、臓器から返ってくる反射を画像にして観察する検査です。腹部超音波検査と呼ばれる検査と同じもので、健診では主に肝臓・胆道・膵臓・脾臓・腎臓・腹部大動脈を確認します。
腹部エコー検査と腹部超音波検査は同じ検査
「エコー」は、超音波が体内の組織に当たって返ってくる反射波を利用する検査を指します。そのため、腹部エコー検査と腹部超音波検査は名称が異なるだけで、同じ検査を意味します。
検査では腹部にゼリーを塗り、プローブ(超音波を送受信する器具)を皮膚に当てます。モニターに映る画像を見ながら、臓器の大きさや形、内部の状態、腫瘤(しこりのように見える部分)や結石などの有無を確認します。
X線を使わないため放射線被ばくはありません。日本超音波医学会の一般向け案内では、腹部超音波検査の時間は約10分とされています。ただし、観察する範囲や見つかった所見によって時間は前後します。短時間で複数の臓器を観察できることも特徴です。
健診では主に6つの臓器・領域を確認する
日本消化器がん検診学会などがまとめた「腹部超音波検診判定マニュアル改訂版(2021年)」では、健診・検診での対象臓器を肝臓、胆道、膵臓、脾臓、腎臓、腹部大動脈としています。
- 肝臓
- 胆のう・胆管などの胆道
- 膵臓
- 脾臓
- 腎臓
- 腹部大動脈
これらを一度の検査で観察し、臓器の大きさ、形、内部の状態、管の太さ、結石や嚢胞(液体がたまった袋状の構造)、腫瘤などがないかを確認します。病気そのものを一律に確定するというより、画像上の異常所見を拾い上げる役割があります。
膀胱や前立腺、子宮・卵巣などの下腹部まで調べるかは、検査の目的や施設によって異なります。健診の案内に「腹部エコー」とだけ書かれている場合は、どこまでが検査範囲に含まれるか受診先へ確認すると確実です。
放射線被ばくがない一方で空気や骨の奥は見えにくい
超音波は放射線を使わず、リアルタイムで臓器を観察できる点が特徴です。一方で、空気や骨の奥は超音波が届きにくく、すべての部位を同じ精度で観察できるわけではありません。
特に膵臓は体の奥にあり、胃や腸のガスが重なると一部が見えにくくなることがあります。また、体格や臓器の位置、検査時の状態、検査者や装置などによっても画像の見え方は変わります。
腹部超音波検診のマニュアルでも、偽陰性(病変があっても検査で異常として捉えられないこと)があると説明されています。「異常なし」は腹部の病気が完全にないという意味ではないため、腹痛や黄疸などの症状がある場合は、健診結果だけで自己判断せず医療機関へ相談してください。
腹部超音波でわかる病気は臓器ごとの形や内部の異常から見つかる
腹部超音波では、臓器の形や大きさ、内部の見え方、結石・嚢胞・腫瘤などを観察します。画像上の所見から病気が疑われることはありますが、エコーだけで確定診断できないものもあります。
| 臓器・領域 | 確認される主な病気・所見の例 |
|---|---|
| 肝臓 | 脂肪肝、肝嚢胞、慢性肝疾患を疑う変化、肝腫瘤など |
| 胆のう・胆管 | 胆石、胆のうポリープ、壁の肥厚、胆管拡張、腫瘤など |
| 膵臓 | 膵嚢胞、膵管拡張、膵炎を疑う変化、膵腫瘤、膵石など |
| 腎臓 | 腎嚢胞、腎結石、水腎症、腎腫瘤など |
| 脾臓 | 脾腫、脾嚢胞、脾腫瘤など |
| 腹部大動脈 | 大動脈の拡張など |
表にある所見が見つかった場合でも、良性の変化か、治療や経過観察が必要な状態かは所見の種類によって異なります。結果票に「要精密検査」「要受診」などの指示がある場合は、その指示に沿って医療機関を受診しましょう。
肝臓と胆のうでは脂肪肝・肝嚢胞・胆石などを確認する
肝臓は腹部エコーで広い範囲を観察しやすく、脂肪肝、肝嚢胞、慢性肝疾患を疑う変化、腫瘤などを確認します。たとえば脂肪肝では、肝臓が通常より明るく見えるなど、脂肪の蓄積を示す所見を手がかりに評価します。
胆のう・胆管では、胆石、胆のうポリープ、胆のう壁の肥厚、胆管の拡張などを確認します。胆石のように超音波で特徴を捉えやすいものがある一方、ポリープや腫瘤が見つかった場合は大きさや形なども含めて評価されます。
これらの所見が見つかっても、すぐに治療が必要とは限りません。経過観察でよい場合もあれば、血液検査やCT、MRIなどを追加する場合もあります。結果票の判定区分と医師からの説明を確認し、指定された時期に再検査や受診を行うことが大切です。
膵臓では膵管拡張・膵嚢胞・腫瘤などの所見を確認する
膵臓では、膵管の拡張、膵嚢胞、膵石、膵炎を疑う変化、腫瘤などを確認します。膵臓の形そのものだけでなく、膵液が流れる膵管が太くなっていないかも、異常を探す手がかりの一つです。
ただし、膵臓は胃の後ろ側に位置し、胃や腸のガスが重なると全体を観察しにくい臓器です。食事の影響や体格、臓器の位置によっては、一部が十分に描出できないことがあります。
そのため、エコーで膵臓の一部が見えにくかった場合や、膵管拡張・嚢胞・腫瘤などを指摘された場合は、必要に応じてCTやMRIなど別の画像検査が行われます。「見えにくい」と「異常がある」は同じ意味ではないため、結果票に記載された理由と次の検査の必要性を確認しましょう。
腎臓・脾臓・腹部大動脈では結石や嚢胞、腫大、拡張などを見る
腎臓では腎嚢胞、腎結石、水腎症(尿の流れが滞って腎臓の中が広がった状態)、腎腫瘤などを確認します。結石の位置や大きさ、尿が流れる部分の広がりなど、形の変化を画像で確認できる点が特徴です。
脾臓では、脾腫(脾臓が大きくなった状態)や嚢胞、腫瘤などを観察します。腹部大動脈では、血管が通常より拡張していないかなどを確認します。これらは自覚症状が乏しい状態で見つかることもあります。
ただし、腹部エコーで見つかった形の変化だけでは原因まで決められない場合があります。画像所見に加えて、症状や血液・尿検査、既往歴なども合わせて医師が評価します。健診で異常を指摘されたら、病名を自己判断するのではなく、判定に応じて受診してください。
腹部エコー検査の内容は準備・観察・結果確認の3段階
腹部エコー検査は、検査前の準備、超音波による観察、検査後の結果確認という流れで進みます。特に食事は画像の見え方に影響するため、受診先から案内された絶食時間を守ることが重要です。
検査前は食事を控えるよう案内されることが多い
食事をすると胆のうが収縮し、胃や腸に空気が増えるため、胆のうや膵臓などを観察しにくくなります。そのため、腹部エコーでは検査前に食事を控えるよう案内されることがあります。
腹部超音波検診のマニュアルでは、午前に検査する場合は前日の22時以降は固形物や乳製品を摂らない、午後の検査では検査前6時間は控えるとしています。また、水や白湯などは検査2時間前まで、1回200ml程度を目安に摂取できるとしています。
ただし、実際の絶食・飲水ルールは検査目的や施設によって異なります。受診先から指定された時間がある場合は、その案内を優先してください。常用薬も自己判断で中止せず、特に糖尿病薬やインスリンを使用している方は、食事を抜く際の対応を事前に医師へ確認しましょう。
当日はゼリーを塗りプローブを当てて呼吸や体位を変えながら観察する
検査当日は、腹部を出しやすい上下が分かれた服装にするとスムーズです。検査台に仰向けになり、腹部へゼリーを塗った後、検査者がプローブを当てながらモニターで各臓器を観察します。
臓器を見やすい位置へ動かすため、息を吸って止める、吐いて止める、横向きになるなどの指示が出ることがあります。プローブを押し当てるため圧迫感が出ることはありますが、痛みがある場合は我慢せず検査者へ伝えてください。
検査時間は施設や観察範囲で異なります。日本超音波医学会の一般向け案内では約10分、大阪南医療センターでは20〜30分程度と案内されています。予定を立てる際は、受付や着替えを含む所要時間も受診先へ確認しておくと安心です。
検査後は所見の有無と再検査・精密検査の指示を確認する
腹部エコーそのものが終わった後は、通常、ゼリーを拭き取れば検査による生活上の制限はありません。ただし、同日に別の検査を受ける場合は、その検査に合わせて食事や飲水の制限が続くことがあります。
結果が分かる時期や説明方法は施設によって異なります。健診では後日結果票が届く場合もあるため、「異常なし」だけでなく「経過観察」「要再検査」「要精密検査」などの判定まで確認しましょう。
異常所見があった場合、腹部エコーだけで原因や病名を決めず、血液検査、CT、MRI、内視鏡などが追加されることがあります。指定された受診時期を放置せず、どの診療科で何の精査が必要なのかまで確認すると、次の行動が明確になります。結果票は受診時に持参しましょう。
腹部エコー検査の費用は保険診療か健診かで異なる
腹部エコー検査の費用は、症状や所見があり保険診療として受ける場合と、健康診断・人間ドックとして受ける場合で異なります。日本超音波医学会の一般向け案内では、保険診療の自己負担額の目安は以下のとおりです。
| 自己負担割合 | 検査費用の目安 |
|---|---|
| 3割負担 | 約1,600円 |
| 2割負担 | 約1,100円 |
| 1割負担 | 約500円 |
血流を見るドプラ法や肝臓の硬さ・脂肪量の測定などを追加すると、費用が加算される場合があります。また、上記は腹部超音波検査の目安であり、診察料やほかの検査費用を含む窓口負担の総額とは一致しません。
健康診断や人間ドックでは、腹部エコーがコース料金に含まれている場合とオプションで追加する場合があり、価格は施設ごとに異なります。予約前に「プランに含まれるか」「追加料金はいくらか」を確認してください。
腹部エコー検査だけで異常の有無を確定せず目的に応じて別の検査を組み合わせる
腹部エコーは多くの臓器を一度に観察できますが、すべての病気を単独で診断する検査ではありません。胃や大腸の粘膜、エコーで見えにくい深い部位などは、目的に合った別の検査で確認します。
胃や大腸の粘膜は内視鏡で直接観察する
腹部エコーでも胃や腸の壁の厚さや動きなどを観察できる場合がありますが、胃・大腸は内部に空気があり、超音波が届きにくい臓器です。粘膜の細かな変化を詳しく見る目的では、内視鏡検査の方が適しています。
胃内視鏡検査は、口や鼻から内視鏡を入れて食道・胃・十二指腸の粘膜を直接観察します。腹部エコーと対象が一部近くても、見ているものと検査の役割が異なるため、どちらか一方で代用できるとは限りません。
大腸の粘膜を詳しく確認する場合は、大腸内視鏡検査が使われます。便潜血検査で異常を指摘された場合など、腹部エコーとは別の理由で大腸の精査が必要になることもあります。検査を勧められた理由を確認し、目的に合う検査を受けましょう。
バリウム検査は胃の形や粘膜の凹凸をX線で調べる
健康診断では腹部エコーとバリウム検査が同じ日に組まれることがありますが、2つは目的が異なります。腹部エコーは超音波で肝臓・胆のう・膵臓などを観察するのに対し、バリウム検査は造影剤を飲み、X線で胃の形や粘膜の凹凸を調べます。
そのため、腹部エコーを受けたから胃の検査も済んだとは考えないことが大切です。健診で胃がん検診の対象になっている場合などは、受診先の案内に沿って胃の検査を別に受ける必要があります。
また、同日に複数の消化器検査を受ける場合は、食事制限や検査順が指定されることがあります。自己判断で順番を変えず、予約票や施設からの説明を確認してください。バリウム検査後の食事や下剤については、別記事で詳しく確認できます。
CTやMRIはエコーで見えにくい部位や異常所見の精査に使われる
腹部エコーで臓器の一部が見えにくい場合や、嚢胞・腫瘤・管の拡張などが見つかった場合は、CTやMRIなどの画像検査が追加されることがあります。エコーとは画像の作り方が異なるため、見える範囲や得意な情報も異なります。
CTはX線を使って体の断面を画像化し、MRIは強い磁気と電波を利用します。超音波は放射線を使わない一方、空気や骨の影響を受けやすいため、1つの検査だけですべてを確認するのではなく、目的に応じて検査を組み合わせます。
どの検査を追加するかは、見つかった所見、症状、年齢、既往歴などによって変わります。「要精密検査」と書かれていても病気が確定した意味ではありません。必要な検査を医師と確認し、結果の意味を詳しく調べてもらいましょう。
腹部エコー検査は複数の腹部臓器の異常所見を拾い上げ次の検査につなげる
腹部エコー検査は、超音波を使って肝臓・胆道・膵臓・脾臓・腎臓・腹部大動脈などを観察し、結石、嚢胞、腫瘤、臓器の腫大や管の拡張などの所見を確認する検査です。
放射線被ばくがなく短時間で受けやすい一方、胃腸のガスや骨の影響で見えにくい部位があり、「異常なし」でもすべての病気を否定できるわけではありません。結果に応じてCT・MRI・内視鏡などの精密検査が必要になることがあります。
- 予約票に記載された食事・飲水・服薬の指示を確認する
- 検査結果では所見だけでなく「経過観察」「要再検査」「要精密検査」などの判定を確認する
- 症状が続く場合や精密検査を指示された場合は、健診結果だけで自己判断せず医療機関へ相談する
検査の目的と限界を理解し、受診先の案内に沿って準備を整えましょう。異常を指摘された場合は、必要な追加検査まで確認することで、検査結果を次の行動につなげられます。